この記事は、ケーシーエスキャロット Advent Calendar 2025 の10日目の記事になります。
「心理的安全性」を導入するなら自組織に合わせてカスタマイズしよう!という方向での導入事例です。
第3章:あしはら国の戦い
あしはら国の大将は、机の上に広げられた一巻の巻物を、しばらく黙って眺めていた。
表紙には、力強い筆致でこう記されている。
表紙には、力強い筆致でこう記されている。
『心理的安全性 正しき心得』
数年前、ググール国より伝わったというその思想は、すでにあしはら国のあちこちで語られていた。大将自らも目を通し、何度も読み返している。ググール国の戦士たちは盾を持つことで戦う力を得たと聞くが、彼らを強くした本質は、盾そのものではないということも見切っていた。
「なるほど……これは“ぬるさ”の話ではない。“正しく扱えば、刃になる思想”なのだな」
大将は深くうなずき、重臣たちを集めた。
軍議の場。重臣たちは巻物の内容を再確認し、その極意を確認しあった。巻物にはこう記されていた。
一、誤りを恐れず語れ
一、異なる意見を敵とみなすな
一、場の安全は全員で守るものなり
一、誤りを恐れず語れ
一、異なる意見を敵とみなすな
一、場の安全は全員で守るものなり
「なるほど……」
「これは深い」
「実に、理にかなっておりますな」
「これは深い」
「実に、理にかなっておりますな」
そして、しばらくして──
活発な議論とともに、次々と新たな巻物が作られていった。
活発な議論とともに、次々と新たな巻物が作られていった。
最初に生まれたのは、続編だった。
『続・心理的安全性 正しき心得』
原著の内容をあしはら国に合わせて書き直したものであり、「あしはら版」を冠しても良さそうなものだが、原著への敬意を込めて続編という扱いにしたらしい。これだけの内容を一巻にまとめられたことは、重臣たちの知識が洗練されてきた証である。それに大将は安堵していたのだが、なんと重臣たちはさらに先を見据えていた。
原著の内容をあしはら国に合わせて書き直したものであり、「あしはら版」を冠しても良さそうなものだが、原著への敬意を込めて続編という扱いにしたらしい。これだけの内容を一巻にまとめられたことは、重臣たちの知識が洗練されてきた証である。それに大将は安堵していたのだが、なんと重臣たちはさらに先を見据えていた。
「心得だけでは足りぬ」
「現場で迷う者が出るのではないか」
「補足が必要か」
などと、さらなる探究心を見せ始めたのだ。
「現場で迷う者が出るのではないか」
「補足が必要か」
などと、さらなる探究心を見せ始めたのだ。
そしてまもなく、新たな巻物が棚に並んだ。
『安心して語らうための十箇条』
『否定なき議論の作法』
『安心して語らうための十箇条』
『否定なき議論の作法』
それでも重臣たちの探究心は止まらない。
『一対一 対話之儀』
『対話を生む拝聴の極意』
『一対一 対話之儀』
『対話を生む拝聴の極意』
次々と棚に増えていく巻物。さらには参照するべき巻物を即座に見つけられるように、索引だけの巻物も用意された。
もはやググール国の戦術書を超えていると言っても過言ではない。棚を埋め尽くす巻物に検索用の巻物まで添えられ、道ここに極まったかに見えたが、重臣たちはそれでも止まらなかった。
何故この手法が効果を生むのか、人の心に何がどのように作用するのか、その肝を詳らかにせずして真の「心理的安全性」は語れぬと息巻き、ついには『心理的安全性 原理経典』を作り上げた。経典に精通した者は師と仰がれようになった。
しかし精通したものにしか理解できない経典では効果は見込めない。軍議に参加する誰もが真意を正確に理解できなければ意味をなさないと考え『原理経典 注釈』なる巻物も作成した。手抜かりはない。
それらは軍議の場で正確性を記すために用意されたものである。もちろん現場の全ての者に読ませるために『原理経典 要約之巻』を人数分用意した。そんな行き届いた配慮を見せたことも、彼らが師と仰がれる所以なのかもしれない。
やがて大将の思いは実り、あしはら国は信仰を深めることになった。
ある夜、大将はしばらく報告書を見つめたのち、ゆっくりと額に手を当てた。
──なぜ、戦に出ぬのだ。
手段を真似するのではなく、自組織にあった方法で心理的安全性を高めようとする工夫を色々とやってみた結果、結局「ぬるい組織」を作ってしまい、困ったことに「心理的安全性を高めることは素晴らしい」という思いだけが強くなってしまう例です。
私は心理的安全性の効果がないと思っているわけではありません。むしろ「効果的ではないチーム」を「効果的なチーム」にするにはとても有効だと思っていますし、マジシャンとしてはこういう心理的アプローチは積極的に取り入れたいところです。
ではなぜ心理的安全性が有効に働かないケースがあるのか?そもそも高める必要があるのか?「効果的なチーム」を目指す他のアプローチはないのか?
次回、ちょっと真面目に考察。
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