2025年12月8日月曜日

心理的安全性の物語
第1章:ググール国の戦い

この記事は、ケーシーエスキャロット Advent Calendar 2025 の8日目の記事になります。

 「心理的安全性」という言葉、どうもしっくりこないと感じているのは私だけでしょうか?この手の話はなぜかセンシティブに扱われていて、ちょっと否定的なことは言い難い雰囲気があります。弱者の気持ちが分からない人だと思われるのは避けたいでしょうし、仮に「心理的安全性を高める施策ははとりません」などと言ってしまうと、パワハラ認定されてしまうのではないか心配になる人もいるでしょう。ある程度気遣いができる人なら、少なからずこのリスクを味わっていることと思います。ちなみに、この状況を「心理的安全性が低い」と表現するようですが。。。

今回は、このちょっしたモヤモヤを小説風に表現してみます。3章構成で。


第1章:ググール国の戦い

ググール国の王は苛立っていた。

領土拡大のために各地へ派遣した精鋭部隊から、勝利の知らせがなかなか届かない。 王のもとに届く報告書は、どれも血気盛んな武勇伝ばかりだが、戦況の改善にはつながっていなかった。

ところが、ひとつだけ特異な報告をする隊があった。その隊の報告は、いつも簡潔で、犠牲が少なく、成果だけが静かに積み上がっている。 圧倒的な強さを持つ勇猛な武人がいるのだろうか。それとも知略に富んだ軍師がいるのだろうか。その理由は報告からはわからない。

もし、この隊の秘密を他の隊にも適用できれば、この戦 ── 勝てる!

たったひとつの隊の特異な報告ではある。だがその報告に光明を見出した王は、激励を兼ねて出陣地を訪れることにした。当然、側近たちは反対する。王が城を空けて戦線に出向くような段階ではない、と強く止める声があがった。それらの意見を抑えて、王が自ら戦線に足を運ぶことを決めたのである。この隊の秘密は値千金であると信じて。

しかし、出陣地を訪れた王が目にした光景は、想像とまったく異なるものだった。隊員たちは、お互いに距離を取って円陣を組み、巨大な盾を構えて軍議の場に臨んでいたのである。異様な光景に見えるが、若い剣士も決して怯まずに意見し、熟練の剣士たちはその意見の穴を指摘しつつ、より緻密な戦略に練り上げていく。時に対立する意見を戦わせながらも決して破綻することはなく、議論は洗練された結果を紡いでいく。それはまるで事前に小さな戦をしているような景色だった。王は気がついた。

──この隊にとっては、実際の戦場に赴くことは、幾度目かの再戦に臨むのに等しい。

他の隊との違いはこの異様な軍議にあり。そう看破した王であったが困惑は残る。軍議の終わりを待ち、王は指揮官を呼んだ。

「これほどの戦果を挙げている理由を知りたい。なぜ盾なのだ?」

指揮官は静かにうなずき、経緯を語り始めた。

「最初は、我々も他の隊と変わりませんでした。経験豊富な剣士の言うことに従うしかなく、若い者は声を発することすらためらっていたのです。そこで、全員に剣を持たせて軍議を行うようにしました。剣を握れば若い剣士でも発言するだけの力を得られると考えたのです」

王はうなずいた。剣を持つことは力の象徴だ。発言力の象徴にもなるのだろうと。しかし指揮官は続けた。

「ところが、思わぬ事態を招きました。誰もが剣を持つようになると、いつ斬られるかと互いに牽制し合い、軍議は静まり返ってしまったのです」

王は眉をひそめた。剣はただ疑念を鋭くするのみか。

「そこで私は発想を変え、全員を“剣の届かぬ距離”に立たせ、さらに盾を持たせました」
「盾を?」
「はい。盾があれば、意見が割れた者から切り付けられるのを一度は防げます。その間に周りの者が止めに入りますので大事を避けられる仕組みにしたのです」

指揮官はそこで初めて穏やかな笑みを浮かべた。

「驚いたことに、急に皆が語り始めたのです。誤った作戦でも、愚かな意見でも構わず口にできる。 互いが安全を確かめたことで、ようやく戦の失敗を事前に避けられるようになりました」

これが、あの報告書に書かれた秘密か。王は深く息をついた。盾など兵士の持ち物のひとつにすぎないと思っていた。 だが、この隊にとって盾は、己の身を守るのみならず、互いの言葉を守る道具であった。

「この仕組みを何と呼ぶ?」

「“心理的安全性”と呼んでおります。そもそも実際に危険なことが起きたことはないのですが、起きるかもしれないという疑念を取り払うことが重要と心得ます。剣を持つことよりも、互いの心を守ることが、強い隊をつくるのです」

王は遠くを見つめた。剣を振りかざすばかりの国の未来が、急に薄い霧の向こうに感じられた。そして、盾を掲げる者たちの隊こそ、これからの国を支える礎になると悟った。王は他の隊にも盾を、いや“心理的安全性”を導入することを決めた。そして指揮官を呼び、この理論を戦術書にまとめることを指示した。

帰還した王は、国の未来を託したこの戦術書を各隊に配布し、全隊員を信じて待つことを決めた。

やがて王の思いは実り、ググール国は進攻を深めることになった。


google の組織研究の結果を表現してみたつもりです。要はこうなることを夢見て心理的安全性を取り入れようとするわけです。
で、この手法をそのまま真似して導入するとどうなるか。次章、まほろば国の物語。

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